2012年2月18日土曜日

褒められ自慢

他人から褒められて悪い気のする人間は少ないだろう。
『照れ臭い』や『こそばゆい』といった事はあっても、誰しも自分の何かしら褒められれば嬉しいと思う。

もちろん俺も例外では無い。ルックスやファッション、ベッドの中でのテクニック等を褒められれば満更では無い。鼻も、鼻以外の場所も高くなるというものだ。

しかし俺はグラフィックデザイナー。
1番嬉しいのは自分のデザインを褒められる事。当然と言えば当然。





先日、恵比寿LIQUIDROOMで催されたLITEのワンマンライブ。
当日は満員御礼で、数多のお客さんに紛れて見知った顔も多かった。

そんな中にZAZEN BOYSのベース、イチロー君の姿が。
彼とは数年来の友人なので、束の間の立ち話。その会話の中でこんな事を言われた。
『このあいだLITEが出たFREE THROWのフライヤー、めちゃ格好良かったじゃん。誰がデザインしたのかと思ったら高田さんだったんだね。』
驚いた。イチロー君に自分のデザインを褒められるのは意外だった。

この時のFREE THROWのフライヤーに関しては以前に当ブログでも少し触れたが、メンバー全員が友人であるLITEがゲストライブという事もあり、あまり『FREE THROWのフライヤー』という事は念頭に置かずに、自分が純粋に格好良いと思うデザインにしようと思い制作したフライヤーだったので、褒められたのは正直嬉しかった。
そして褒められた相手が、旧知の仲でもあり、毒舌で知られるイチロー君。意外だが嬉しかった。








イチロー君と言えば、彼が頻繁に出没するライブハウス下北沢ERA。
このブログを読んでくれているであろうヘッズ達にはお馴染みのavengers in sci-fiやthe telephpnes、LITE、the chef cooks me等を輩出したライブハウスだ。

そんな下北沢ERAを代表するバンドのひとつにwooderd chiarieというバンドがいる。ご存知の方も少なくないだろう。
おそらく6、7年前だから随分と前の話。頼まれてもいないのに何となくwooderd chiarieのロゴデザインを作り、ベースのゆたちんに見せてみた。すると、たまたまその場に揃っていた他のメンバーとにわか話し合いになっている模様。

次にゆたちんから発せられた言葉は『真二さん、このデザインでTシャツを作って下さい。』

デザインを見せてからものの数分でTシャツ化が決まった。ゆたちんは『デザインが良いからです。』と言ってくれた。当時駆け出しのデザイナーであった自分にはとても嬉しかった言葉である。



もう随分と前のデザインだからちょっと恥ずかしいけど。





時系列は前後するが、ZAZENイチロー君にお褒めの言葉をいただいたFREE THROWのフライヤー。
LITEが出演した翌月のゲストバンドはシャムキャッツというバンドだった。

FREE THROWに出演するバンドは自分にもある程度関わりのあるバンドが多いのだが、俺は不勉強にもシャムキャッツというバンドを知らなかった。
そうなるとフライヤーのデザインもをする際もイメージが掴みにくく、いつも以上に頭を悩ませる事になる。ウェブサイトやマイスペース等で音源を聴くなど情報を得る事は出来るものの、ある程度の限界はある。
無い知恵を雑巾の様に絞った結果、バンドのイメージはあまり意識せずに、自分の中にあるデザイナーとしての引き出しを総動員してデザインをしようとハラを括る。

かくして刷り上がったフライヤー。毎回FREE THROWのフライヤーの評判等はあまり気にしない俺も、この時は正直不安を抱えていた。普段のFREE THROWのフライヤーデザインと若干テイストも違う。

しかし後日、ツイッターでFREE THROWのDJタイラ君がリツイートしたものの中に『来月のフリスロのフライヤー超カワイイ!』的なツイートを見た。人知れない苦労と苦悩が報われた気がして嬉しかった。








FREE THROWと言えば、DJのタイラダイスケ君。彼の師匠筋にあたるロックDJの大御所、保坂壮彦さん。

ROCK IN JAPAN FES.やCOUNTDOW JAPANでレジデントDJとして活躍し、Getting Better片平さん、puke!前田さんらと共に日本のロックDJシーンの礎を築いた人物である。(DJしてない時はフツーのオッサンさんだけどね。)

これまた5、6年ほど前になるだろうか。タイラ君の紹介で保坂さんと知り合い、その年の年末のCOUNT DOWN JAPANで販売するDJ保坂壮彦のTシャツのデザインを依頼された。
保坂さんは『ALL IS LOVE IS ALL』という個人プロダクションを立ち上げており、保坂さん自身のコピー・キャッチフレーズも同じく『ALL IS LOVE IS ALL』だった。(意訳すると『全ては愛であり、愛こそが全てである』みたいな感じらしい。)
良い言葉だったので、そのフレーズを引用し、Tシャツのデザインに使わせていただいた。
すると保坂さんがこのデザインをいたく気に入ったらしく、個人サイトのトップ画像等にも使用してくれ、尚かつ昨年末(2011年12月)リリースのコンピレーションアルバムのジャケットにも使いたいとの申し出までいただいた。

デザインをする上で"普遍性"に最もプライオリティを置く自分としては、何年も前に作ったデザインを数年後、しかも保坂さん自身初の公式音源のジャケットに使わせていただくというのは、デザイナーとしてこれほど嬉しい事は無い。レコード会社の担当さんも保坂さんの意向を酌み、ジャケットデザインも併せて弊社に依頼してくれた。しかもジャケット面(業界用語で言うところの表1)はアーティスト名すら載ってない、件の『ALL IS LOVE IS ALL』のロゴのみ。ストイックと言っても良い程の潔さ。

数年前に作ったロゴデザインをここまで気に入ってもらえるのは、デザイナーとして身にあり余る光栄。
幾多の仕事の中でも、特別に嬉しいエピソード、嬉しい仕事だった。








これは少し前の話、元チャットモンチーのドラムで、現在は作家・作詩家として活動している高橋久美子。通称クミコン。ちなみに俺はクミコンと呼んだ事は1度も無い。

彼女の家で悪友数人が集まり呑み会を催した事があった。呑めや歌えやの酒席の最中に尿意をもよおし、厠を拝借。あちこちに配置された坂本龍馬グッズに紛れて、見覚えのあるフライヤーが。
ちょうどその時期に俺がデザインし、ライブハウス等で配布されていた『衝動オーケストラ』というイベントのフライヤーである。
あー俺がデザインしたの知ってて飾ってくれてるんだなーと思い、酒席に戻り久美子にその旨を伝えると『え? あれ真二君がデザインしたん? ライブハウスでもらって可愛いデザインやなーと思って飾ってたんよー。』との返答が。

確かにフライヤーデザインの打ち合わせの際に企画者(3人の女の子)の熱意や心意気を聞いていて、尚かつ彼女達の音楽への愛を感じたので、版型も変形にしたり、イベントのタイトルロゴも相当の時間を掛けてデザインしたりと、いつも以上に心血を注いでデザインしたフライヤーではあった。(もちろん普段の仕事も手を抜いている訳では決して無い)
そんな渾身のデザインが友人の目に留まり、厠に飾ってもらえていた。これまたデザイナー冥利に尽きる嬉しいエピソード。 (ちなみに若いコの為に補足しておくと、厠(かわや)ってのはトイレの事ね。)


しかし上記の話、久美子が本当は俺がデザインしたと知っていて飾ってくれていたのでは無いかとの疑念を少なからず抱き続けている。つぎに久美子に会った時にでも問い詰めてみようと思う。








そんな久美子が在籍していたバンド、チャットモンチーと言えば、ちょうど1年程前にチャットのツアーグッズのデザインをした。
正直、チャットモンチーほどのいわゆる大物メジャーアーティストと仕事するのは初めてだった。
ソニー社に伺い、担当者さんと打ち合わせ。その後、数度のデザイン案のやりとりを経て、無事にTシャツとTシャツの裾に付くネームタグ、そしてトートバッグの3種類のデザインを納品。

件(くだん)のツアー『YOU MORE 前線』が始まり数週間が経ち、デザインしたグッズが送られて来た。自分がデザインしたグッズの現物を手に取る時はやはり心が躍る。
その荷物の中に担当者さんからの簡単な書簡も入っていた。抜粋して要約すると『Tシャツも好評ですが、トートバッグ!ものすごく大人気です。ワタシもあっこちゃんも愛用しております!』との嬉しい一文が。

確かに昨春、昨夏はライブハウスや街で、そのトートバッグを持っているヒトを数人見掛けた。照れ臭さもあるが、やはり嬉しい。


ちなみに、このチャットモンチーとの仕事に関してはちょいとした後日談的なウラ話があり、それはまた改めて書き起こそうと思っている。遅筆な筆者の事だからいつになるかは分からんが。



可愛いブタちゃんは久美子がモデルです。





と、なにやら褒められ自慢の様なブログになってしまったが(まあ実際褒められ自慢なんだけど)、デザインを褒められて嬉しかったエピソードを幾つかかいつまんで書いてみた。

書いてから気付いたが、上記のエピソードを1つずつ分けてブログに掲載すれば、更新回数も稼げるし、読む側も楽だな、と思った。しかし書き上げてしまったものは仕様が無い。このまま掲載することにする。


フリーランスのグライフィックデザイナーという生業は、一見すると華やかな職種の様に見えるかも知れないが、実際は苦労と苦悩の連続で肉体的にも精神的にもタフな仕事である。心が折れそうになる時も数えきれない程あったし、これからも数え切れないぐらいのストレスや苦痛が待っているだろう。

もちろん自分が選んだ仕事、自分が選んだ道なので、後悔は微塵もしていない。嘘。たまに後悔する。

ただ、少しだけ心や身体がヤサグレた時に、上記の様に他人から自分の仕事・作品への評価をいただけると、グラフィックデザイナーという仕事に対して、シュワルツデザインに対しての誇りが少しだけ輝く。そして単純に嬉しい。


まあ何が言いたいかと言うと…みなさん遠慮せずにもっと俺様を褒めちぎって下さい。


相変わらずの長文になりましたが、ご拝読ありがとうございました。